Saul Bass
映画タイトルというジャンルそのものを発明した人物。Hitchcock の Vertigo (1958)、Psycho (1960)、North by Northwest (1959)、Preminger 全作。切り抜き、幾何学、影絵を駆使して、本編に先立つ精神状態を観客に与える手法を確立した。
A title sequence is a movie's handshake.
You have ninety seconds to convince me to stay. — Kyle Cooper, 1995
1955 年、米国の Saul Bass が Otto Preminger 監督『Man with the Golden Arm』のオープニングで、それまで「キャストとスタッフ名を流すだけの場所」だった部分を、突如 映画の最初の 90 秒 へと再定義した。腕の代わりに切り抜きと幾何学とジャズが流れ、観客は本編が始まる前にすでに「映画の世界」へ引き込まれていた。
これ以降、タイトルシーケンスは独立した職能として確立した。1960 年代の Maurice Binder (007 シリーズ)、Pablo Ferro (Dr. Strangelove)、1980 年代の R/Greenberg Associates (Alien, Superman)、1990 年代の Kyle Cooper (Se7en, Mission Impossible) を経て、Imaginary Forces、Prologue Films、Yu+co、MK12 などのスタジオへ。そして 21 世紀には Mad Men、True Detective、Westworld、Stranger Things のようにテレビドラマこそが映画タイトル芸術の最先端となった。
タイトルシーケンスは 「タイポグラフィ・モーション・撮影・グラフィック・音楽」 が 1〜2 分に圧縮された総合芸術である。本編とは別の作品として独立したエントリーであり、Annecy、Cannes、Emmys、SXSW で受賞対象となる。デザイナーが映画館で名前を見られる、稀少な瞬間でもある。
映画タイトルというジャンルそのものを発明した人物。Hitchcock の Vertigo (1958)、Psycho (1960)、North by Northwest (1959)、Preminger 全作。切り抜き、幾何学、影絵を駆使して、本編に先立つ精神状態を観客に与える手法を確立した。
007 シリーズの公式タイトルデザイナー。Dr. No (1962) の銃口越しの 007、Goldfinger の金色のシルエット、A View to a Kill のレーザー光線。シルエットとセクシーなネオン色彩で「ボンドの視覚記号」を確立した。
Stanley Kubrick の Dr. Strangelove (1964) で手描き極細書体と高速カット編集を開発。後に Bullitt、To Die For、Beetlejuice、Men in Black の予告編・タイトル。手描きの不揃いな大文字書体「Pablo Ferro typeface」は彼のサイン。
1996 年 Imaginary Forces 共同創設、後 2003 年 Prologue Films 設立。Se7en (1995) のタイポグラフィ + 痙攣的編集が、タイトル芸術を 90 年代に再生した。Mission Impossible、Spider-Man、American Horror Story、The Walking Dead のタイトル。
Cooper、Mikon van Gastel、Peter Frankfurt 創設。Mad Men (2007)、Stranger Things、Black Mirror、Severance、Boardwalk Empire 等で 21 世紀タイトル芸術の中心となる。Emmy 多数受賞。
True Detective S1 (2014)、Westworld、The Crown、The Mandalorian、Marvel: WandaVision のオープニング。Emmy 4 度受賞。デジタル合成と象徴的画像の重ね合わせを極めた現代的方法論。
あらすじを説明しない。映画の 気分 ・色温度・湿度を 90 秒で観客の身体に注入する。Saul Bass がその規範を確立した。
文字組み = ロゴ + 動き + 音楽の三位一体。Pablo Ferro の手描き、Cooper の痙攣的編集、Antibody の象徴重ね合わせ。タイポグラフィが画像になる。
本編とは別の作品として鑑賞される。Vimeo、artofthetitle.com、SXSW Title Design Awards。タイトルだけで完結する短編アニメーションとしての地位。
映画タイトル史が世界に手渡したものは、「90 秒のグラフィック総合芸術」というジャンルそのものである。タイポグラフィ + モーション + 撮影 + グラフィック + 音楽が、映画館の暗闇でひとつの体験として圧縮される。Bass、Binder、Ferro、Cooper、Imaginary Forces、Antibody らがその伝統を 70 年かけて磨いてきた。
21 世紀の現在、ストリーミングサービス時代になって テレビドラマこそが映画タイトル芸術の最前線 となった。Mad Men、Game of Thrones、True Detective、Stranger Things、Severance、Mr. Robot ── これらのオープニング 60 〜 90 秒が、シリーズ全体の世界観を結晶化する役割を担っている。
そしてもう一つ、映画タイトル芸術は 「グラフィックデザインが時間軸を持つとどうなるか」 という問いの最も成熟した回答である。Web アニメーション、UI モーション、SNS 動画広告、AI 生成映像 ── 21 世紀のあらゆる動的グラフィック表現は、Saul Bass が 1955 年に始めた実験の延長線上にある。