Vol. 50 / Series VIII Spring 2026
— Radiohead · 1994 — present —
N° 50 / Stanley Donwood
// fitter happier · more productive · comfortable

Stanley
Donwood
+ Radiohead

崩壊した風景としてのアートワーク 1994–現在

KID A · 2000 · CAPITOL · BURNING MOUNTAINS
"Everything in its right place."

Dan Rickwood
aka Stanley Donwood

Dan Rickwood は 1968 年生まれ、エセックス大学で Thom Yorke と出会った時から、Radiohead の全アルバム・全アートワークを手がけることになる視覚的パートナーだった。1994 年の "My Iron Lung" EP 以降、彼の名前 Stanley Donwood は Radiohead のもう一人の正式メンバーとして扱われてきた。

彼の作品は、デジタルな崩壊と手仕事の絵画を執拗に往復する。OK Computer の青緑のハイウェイ風景、Kid A の燃える山脈、In Rainbows の蛍光の飛沫、A Moon Shaped Pool の塗り重ねられた油彩。どれも「終末後の風景」という共通の気配をまとっている。

彼にとってアルバムジャケットは「絵画の延長」であり、Thom Yorke と並んで描き、議論しながら、レコードと並走する 1 枚の絵を完成させていく。「自分は商業デザイナーではない、画家だ」と公言する稀有な存在である。

Ten Albums, One Painter.

// Year// Title// Visual Theme// Catalog
1995The BendsCPR dummy / iron lung — distress signalCDPCS 7372
1997OK ComputerHighway diagrams · airline phrases · existential codeCDNODATA 02
2000Kid ABurning red mountain rangesKIDAMNESIAC 1
2001AmnesiacCrying minotaur · library bookKIDAMNESIAC 2
2003Hail to the ThiefWord-grid map of Los Angeles war signageCDP 7243
2007In RainbowsEtched fluorescent splashes on blackXLCD 324
2011The King of LimbsSpirit-tree gnarled woodcutTICK001CD
2016A Moon Shaped PoolCracked oil-paint terrain · vegetalXLCD 790
CAUTION · MERGE · KEEP DISTANCE · CALCULATING
FITTER HAPPIER · MORE PRODUCTIVE
EXIT · STAGE LEFT · LOST
OK COMPUTER
OK Computer 1997 · Parlophone
Kid A
Kid A 2000 · Parlophone
In Rainbows
In Rainbows 2007 · Self-released
HAIL TO THE THIEF
SUNSET BLVD
FREEWAY
AIRPORT
EVACUATE
FALSE START
BUNKER
DETOUR
DEAD END
CURFEW
SHELTER
BURIAL
RIOT
EXIT
Hail to the Thief 2003 · Parlophone
Amnesiac
Amnesiac 2001 · Parlophone
A Moon Shaped Pool
A Moon Shaped Pool 2016 · XL Recordings

The Crying Bear.

Donwood が Hail to the Thief 期に描き、後の Radiohead 全グッズに登場することになった泣くクマ。怒りと悲しみが同居した顔。彼自身は「これは 笑顔の自分 ではない方の自画像」と語っている。

彼の作品の多くは、可愛いキャラクターと終末的な恐怖が共存している。子供の絵本のような筆致で、戦争・監視・気候崩壊の悪夢が描かれる。この 不協和 こそが、Radiohead の音楽そのものの視覚的等価物として機能してきた。

01
Painted, Not Designed

絵画として作る

PC で生成された画像ではなく、絵筆と版画刀で描いた原画をスキャンしてジャケットにする。手の痕跡を残すことを優先する。

02
Apocalyptic Calm

終末の静けさ

燃える山脈、洪水、廃墟。それでも構図は静かで、観賞者は事態の に立ち会わされる。

03
Word as Image

イメージとしての言葉

Hail to the Thief、In Rainbows、OK Computer。文字を絵の素材として使い、警告板、看板、コードのような視覚を作る。

04
In-band Member

バンドの一員として

外注デザイナーではなく、Thom Yorke の隣でアルバム制作と並行して描く。録音とアートが同時進行で生まれる稀有な体制。

How a Donwood Sleeve is Made

並走する制作

Radiohead が録音を始めると、Donwood はスタジオに併設のスタジオに入る。バンドの即興と Donwood の絵筆が、同じ部屋の空気を吸って育つ。

大型キャンバス

1m〜2m の大型油彩。彼は一切「12 cm × 12 cm の正方形」を意識しない。後で必要な部分を切り取り、CD ジャケットに縮小する。

版画と版下

木版、リノカット、シルクスクリーンを併用。In Rainbows のスプラッシュは実際の絵の具の飛沫を高解像度でスキャンしたもの。

歌詞と画

歌詞集、ブックレット、12 インチ盤すべてを 1 つの絵画作品として設計。リスナーは聴覚と視覚の両方で同じ場所に着地する。

制作日記

Donwood は各アルバム制作中の日々を「Slowly Downward」というブログで公開。後にこれが書籍 "There Will Be No Quiet" としてまとめられた。

展覧会

Tin Man Alley、Christie's、Outer Spaces。アルバム制作の副産物としての絵画は、現代美術として独立して取引される存在になっている。

Legacy

Donwood は 30 年にわたり、ロックバンドとビジュアルアーティストの関係を パートナーシップ として再定義してきた。「アートワーク」という外注業務を、バンド内活動の中核に押し上げた立役者の一人である。

彼の絵画は単なるレコードジャケット以上のものになった。気候変動、監視社会、消費主義への批判を、Radiohead の音楽と 同じ筆致 で発信し続けるアーティストとしての立場を確立。Banksy 以降の英国ストリート・アート、Damien Hirst のスポット絵画、Mark Manders の崩壊した彫刻と並ぶ、世紀末以降の「不安の絵画」の一系譜を築いた。

そして何より、Donwood と Radiohead の関係は、レコード産業が崩壊した時代における新しいアートの在り方を示している。物理メディアの売上は減っても、ジャケットは 絵画 として残り、コレクターズアイテムとして、書籍として、版画として再生し続ける。