Vol. 14 / Series III Spring 2026
— drawn, not photographed —
N° 14 / 図像論
特集 / FEATURE No. 14 — APPLIED DESIGN / Illustration 詳論

Drawing the unseen. — 写真には撮れないものを、線と色で召喚する仕事 —

REG

イラストレーションは、世界に存在しないものを画面に召喚する手仕事である。

— Premise / 前提

写真が「あったもの」を記録するのに対し、イラストレーションは「ありえたもの」「ありえないもの」を見せる。寓話、感情、抽象概念、未来、内面 — 写真には絶対に撮れない領域こそが、イラストの本領。

— Coverage

本号は、写真との対比、六つのスタイル、四つの機能、四段階の制作プロセス、近代イラスト史の四人の巨匠を扱う。
I

Photo ≠ Illustration.

What only drawing can do

写真はあったものを、
イラストはあり得るものを描く。

写真は強力な記録媒体だが、必ず「現実に存在したもの」しか写せない。一方、イラストレーションは 感情・抽象・寓意・未来・内面 といった、カメラに映らない領域を表現できる。

編集者がイラストレーターに依頼するのは、しばしば「写真では撮れないから」という単純な理由による。経済記事の比喩図、心理学の概念、SF 小説の表紙、子供の絵本 — どれも写真では成立しない領域。

もうひとつ重要なのは 作家性 (タッチ)。同じテーマを 10 人のイラストレーターに描かせれば、10 通りの結果が出る。書体選びと並ぶ「ブランドの体温」を決める要素である。

— Photo vs Illustration —

— Photography —
  • ○ 現実の記録
  • ○ 客観的・即物的
  • × 抽象概念は表現困難
  • × 作家性は制限される
— Illustration —
  • ○ 概念・寓意の可視化
  • ○ 強い作家性
  • ○ 写真にない世界を作れる
  • × 客観性は弱い
II

Six styles.

A working vocabulary
— 01 / Line —

線描

— Line Drawing —

輪郭線だけで成立する、最も古典的なスタイル。Saul Steinberg、Quentin Blake、Christoph Niemann。線そのものに作家の手の痕跡が残る。

USE 編集 · 絵本 · スポット
— 02 / Flat —

フラット

— Flat / Vector —

陰影を排した平面的な色面構成。SVG/ベクタ親和性が高く、UI イラストや企業 Web で多用。Material Design 系の標準スタイル。

USE Web · UI · インフォグラ
— 03 / Risograph —

リソグラフ

— Riso / Layered —

限定された色を版ごとに重ね刷りする孔版印刷。版ズレの「不完全さ」が手仕事の温度を生む。Zine、ポスター、ZINE 系自費出版で再評価。

USE Zine · ポスター · 自主制作
— 04 / Geometric —

幾何学

— Geometric —

○・△・□といった単純形態の構成。バウハウス、Memphis Design、Paul Rand の遺伝子を引く。抽象概念や企業ブランドの可視化に向く。

USE ブランド · ロゴ · 抽象
— 05 / Hand-drawn —

手描き

— Hand-drawn / Sketchy —

意図的に揺らぎを残した線。Maira Kalman、安西水丸、五味太郎のような温度のある絵に。デジタルで描く際にも、わざとブラシのざらつきを使う。

USE 絵本 · エッセイ · パーソナル
— 06 / Collage —

コラージュ

— Collage / Mixed —

異なる素材・テクスチャを切り貼りで組み合わせる。Saul Bass の系譜、現代では Hattie Stewart や宮本武典など。ミックスメディアの面白さ。

USE ポスター · 表紙 · 編集
III

Four functions.

What illustration does
— 01 / Editorial —

編集

— Editorial illustration —

記事の主題を視覚的に翻訳する。比喩、寓意、抽象概念。雑誌・新聞・Web メディアの花形領域。記事 1 本につき 1 点が原則。

— 02 / Character —

キャラ

— Character design —

記号化された人格を造形する。マスコット、絵本の登場人物、ゲームキャラ。「100 通りの表情」が描けるかが設計力の試金石。

— 03 / Informational —

図解

— Informational —

仕組み・データ・関係性を視覚化する。Vol. 09 の情報デザインに最も近接した役割。Tufte、Giorgia Lupi、Christoph Niemann。

— 04 / Narrative —

物語

— Narrative / Sequential —

絵本、漫画、グラフィックノベル、コマ割りで物語を語る。文字と絵の関係を時間軸で設計する高度な領域。安野光雅、Maurice Sendak。

IV

Four stages.

From brief to final
01

Sketch

— ラフ —

編集者からの依頼書 (Brief) を読み込み、複数の構図案を鉛筆スケッチで提案。最も創造性が試される段階。

02

Refine

— 清書 —

ラフを基に、線・形・構図を確定。クライアントとの 1〜2 回の修正を経て、最終案へ。

03

Color

— 着彩 —

確定した形に色を載せる。色数を絞り、媒体 (印刷 / Web) の特性を考慮。重要なのは「正しさ」より「気分」。

04

Final

— 仕上げ —

最終的な質感、ハイライト、テクスチャを加える。納品形式 (CMYK / RGB / SVG / PSD) に応じて書き出し。

V

Four masters.

Modern illustration's lineage
Saul
S.

Saul Steinberg

— 1914 – 1999 / The New Yorker —

The New Yorker の表紙イラストレーター。線一本で都市・人間・哲学を語る。建築教育を背景に、紙の上に「思考の建築」を構築した。彼の "View of the World from 9th Avenue" は世界で最も模倣された一枚。

— "View of the World from 9th Avenue", 1976
Maira
K.

Maira Kalman

— 1949 – / illustrator + author —

水彩と手書き文字を融合させた、温度のある絵本作家。日常の些事を「神聖な観察対象」として描く。NYT のオンラインコラム『The Principles of Uncertainty』で、20 年代以降の編集イラストの一つの極を提示した。

— "The Principles of Uncertainty", 2007
C. N.

Christoph Niemann

— 1970 – / Berlin / NYT —

幾何学的単純化と寓意の達人。「葉っぱが鳥に見える」「コップが帽子に見える」といった視覚遊戯を、編集イラストの世界で確立。アプリ化、AR、絵本など現代的なメディアにも積極的。

— "Sunday Sketching", 2016
五味
太郎

五味太郎

— 1945 – / 絵本作家 —

日本の絵本イラストの代表的存在。極限まで単純化された線と色、ユーモラスな構図。『きんぎょがにげた』『さる・るるる』など、子供と大人の境界を超える普遍的な語法。

— 『きんぎょがにげた』, 1982